みかんの皮にみる後片付け

「腹が減ったな」私がつぶやくと彼女は「私は料理が得意なのよ」と言った。

彼女の言葉はいかにも「作らせてくれ『アッ』と言わせてやる」そんな自信に満ちあふれていた。私に彼女を止める権利はなかったから「じゃあ頼む」とだけ言った。言うか言わないかのうちに彼女は背を向けて料理をはじめた。

私が心配していたのは彼女の作る料理の味ではない。よほどおかしなものでなければ私は文句もつけず「ああ、おいしい」と適当に返すだろう(もちろん適当に返している素振りなんて見せるはずがない!)。何度も書いたように私は味に対してそれほどのこだわりを持たないのだ。彼女に例の自信がなかったとしても問題なかっただろう。私が心配していたのは料理の後だ。

彼女は料理の後「片付け」をするか。それだけが心配だった。

私のこんな本音を聞けば無粋なやつだと思われるかもしれない。しかし彼女は片付けというものにひどく無頓着だ。私が心配するほどにだ。様々な場面でそれが出ている。それはみかんを食べるときにも出る。

彼女はみかんを食べるときに妙な食べ方をする。皮をぽろぽろとむくのだ。

普通の人がみかんの皮をむく手順を追ってみよう。ヘタのある側かその反対側の頂点に爪を入れる。そこから放射線上に開くようにむく。そうすれば最終的に一つの皮になる。星型のようになる。これが食後のみかんの皮にあるべき姿だ。これが普通だ。

それを彼女ときたらどうだ。断片的にむくものだから皮がばらける。そしてあろうことか皮を捨てることもしない。いつも私が彼女の食べたみかんの皮を捨てるのだ。これは仮説だが彼女は自分でみかんの皮を捨てたことがないのではないか。だからあんな皮のむき方ができるのではないか。

「できたよ」あれこれと考えているうちに彼女の声が聞こえた。おいしそうなオムライスだ。卵の黄色とトマトケチャップの赤色が綺麗だ。実際に食べてもおいしかった。それを彼女に伝えると満足そうに笑った。可愛い。

もちろん後片付けは私がした。