『グラスホッパー』伊坂幸太郎

昨日のお好み焼きと、その後の「やんちゃ」で、ばたりと寝てしまった私が、目を覚ましたのは、十一時だった。睡眠時間は五時間。思ったよりもずっと早く起きれた。

頭が痛い。二日酔いではない。私はお酒を飲まない。鼻もむずむずとする。目や喉も痛い。鼻・目・喉は昨日からだが、続くとなると、話は変わってくる。そう、風邪だ。

歳柄にもなく、はしゃいだ結果がこれだ。立ち上がれば、きっと足元がふらふらとするだろう。そこまでして確信を強める必要もない。原因も分かっているし、慌てても仕方ない。枕元に置いておいた『グラスホッパー』の続きを読む。落ち着いたところで、体を起こす。ふらふらした。足に力が入らない。なるほど、風邪だ。

階段を降りると、台所に母親が居た。「風邪薬はあるか」と訊く。「買ってこようか」と言ってくれたので、それに甘える。また、だらだらと本を読む。母が帰ってきて、薬を手渡される。「昨日、弟が飲んでいたものと比べて、ここがこう違う」といったようなことを言っているが、よく分からない。風邪のせいにする。どうやらラーメンを作ってくれるらしい。これが実家暮らしだ。

ラーメンを食べ、風邪薬を飲む。何に効くのかは分からない。おまじないだろう。カプセルを二つ飲まないといけないようだ。お茶をグラスに注いだところで、母に止められる。「お茶は止めたほうがいい」以前は、そんなことを言わなかった。きっとどこかで吹き込まれたのだ。流しにお茶を捨て、代わりに水道水を注ぐ。

まずそうな水道水がグラスに満たされる。カプセルを一つずつ、えん下し、最後に水で流し込む。まずくはない。というよりは、味がはっきり分からない。ラーメンに真っ赤な韓国の香辛料を入れた時点で気づいても良さそうなものだが、気づかなかった。味は、程度ではなく、切り捨てられたときに、はじめて違いに気づくのかもしれない。

寝室に戻り、横になって本を読む。殺し屋たちが騒いでいる。気づくと十八時だった。眠ってしまったようだった。外は薄暗く、電気をつけなければ、本が読めない。随分と寝たはずだが、症状はすこしも変わっていない。

ふらふらしながらリビングへ行き、パソコンをさわる。ぼんやりしていたので、何をしていたのか分からない。ときどき、本を読む。読み終える。感想を書こうとするが、進まない。風邪のせいにする。いつも走るような時間になった。走ろうと思い、服を着る。

久し振りに長袖の上下を着る。風邪をひくくらいに寒いのだから当然だ。足元がおぼつかない。ここで意地をはれる人間になりたい。ここが差になるのだ。そんなことを考えながら、外へ出る。

雨の音がはっきりと聞こえる。手を伸ばして雨に触れる。手が濡れる。

普段なら走るが、この寒さと体調、おまけに雨だ。すごすごと玄関のドアを閉じる。これが差なのだ。寝ている間に薬が切れたのかとも思ったが、夕食の後飲んだ薬も効いている感じがしなかった。