一日一冊『流線形シンドローム』原 克

流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌

流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌

今日の一冊は『流線形シンドローム』原 克。三月の新聞で紹介されていたので読んでみたくなった。紹介の内容については覚えていない。

表紙には流線形を意識した(?)女性が描かれている。

流線形の誕生から、それがどのように広まっていくかを、雑誌やファッションなど様々な媒体を通じて見つめている。

本書は二部に分かれており、アメリカと、ドイツ・日本である。一部アメリカでは流線形の誕生やその成長を追い、二部では一部と対比する形で、ドイツや日本の場合にはどう取り入れられたか、どういうものだと考えられたかを追う。一部だけでも十分面白いと、私は感じた。

物理的な用語として生まれた「流線形」という言葉、はじめは新しいものである流線形を広めようと他のイメージと結びつけながら、広められていく。他のイメージとしては、雨粒だとか卵だとか、そういったものだ。徐々に他のイメージを必要としなくなり、流線形そのものがイメージを持つ言葉へと成長していく。そこからは、逆にイメージを持たせるために「流線形」が使われていく。

流線形の持つイメージは、自動車などが取り入れた際に得られる効率性や、スピード感。そういったものがからくる、自身の能力を上げるのではなく、無駄(抵抗因子)を排除するというもの、などだ。それらが、自動車や鉄道などはもちろん、女性のファッションやスタイル、さらには、警備隊の対応マニュアルにまで、取り入れられていく。

「流線形」をテーマに「シンドローム」とでも言うしかないような、得体の知れない流行病に世界がおかされていく様子が描かれるわけだが、「これは必ずしも流線形に限ったことではないな」と私は思った。それはもちろん、ここまでの規模はないかもしれないが、同じような「言葉の一人歩き」、「イメージの流用」は、しばしば起きていると思う。

2500円は、まあまあ良い値段。個人的には一部だけにして、A6サイズにならないかなと思う。